就業規則の「不利益変更」
「就業規則の不利益変更」
就業規則を変更する時、変更内容は社員にとってメリットがあることばかりではないですね。会社の状況や起こり得る諸問題を未然に防止するために等、社員にとってはデメリットになる変更内容になることも当然あります。不利益変更とは、社員にとってデメリット=不利益になる変更のことを指します。
結論的には、就業規則の不利益変更は、会社から一方的に行うことはできません。
社員にとっての不利益な変更とは何なのか?
「不利益」つまり、「労働条件が下がる」ということです。労働条件…労働時間・休憩時間・休日・休暇といった時間に関すること、また、給与・手当・賞与といったお金に関すること、こういった労働条件が、社員にとって「下がる時」のことです。やはり、社員にとって、生活に関わる大きな要素なので、そう簡単には変更できないように法律で規制されているということです。
では、就業規則の不利益変更はできないのか?
就業規則を社員にとって不利益な変更であれば、変更できなければ、それはそれで大変です。会社にとっては経営を脅かすことにもなり得るでしょうし、様々なリスク管理もできなくなります。ですから、不利益な変更であっても、変更はできます。ただし、きちんとした順序を踏んでからという条件付きだと理解してください。
そもそも、実務的には、就業規則を変更する際には、社員代表の方を選出して、その方の意見を聞いた上で、そのことを証明する「意見書」という書類を添付して労働基準監督署に届け出る必要があります。これは、就業規則の変更内容が社員にとって不利益かどうかに関わらず、変更する内容全体に対して意見を聞く必要があります。つまり、どんな内容であろうと、就業規則を変更する際に、社員の意見を聞かずに(意見書を添付せずに)、変更することはできない訳です。
その上で、就業規則の不利益変更の場合は、「社員代表者の意見を聞く」だけでは足りないと考えてください。
順序を踏んだ条件とは何か?
条件と言っても、明確な基準がある訳ではありませんし、法律でこうしなければならないと細かいところまで決められている訳でもありません。
ちなみに、どうすれば『不利益変更』にならずに就業規則の変更ができるのかについて、法律での規定は以下のとおりです。
(1)従業員の合意があること(労働契約法9条)
(2)変更後の就業規則を従業員に周知させていることと、その変更が以下の1~4に照らして合理的であること(労働契約法10条)
1. 労働者の受ける不利益の程度
2. 労働条件の変更の必要性
3. 変更後の就業規則の内容の相当性
4. 労働組合等との交渉の状況等
上記、(1)(2)どちらかに該当する場合に認められる。
要するに、最低限以下の3点が条件と考えてください。
①不利益変更をしなければならない理由を明確にする
②理由をきちんと説明して同意を得る
③同意したことを証明する書類を残す
今回、①就業規則の不利益変更をしなければならない理由を背景や経緯なども踏まえて明確にし、②社員全員に説明する時間を設けて、丁寧に内容を伝え、同意を得る。③その内容を記した書面にサイン・押印をもらっておくということです。
特に、②が大切です。説明の方法としては、社員全員参加の説明会を実施することはもちろん、より変更内容の不利益の度合いが大きいものについては、社員一人ひとりと個別面談を行うことも必要になるでしょう。法律的にどうすればいいのか?も大切ですが、社員一人ひとりのモチベーションも大切です。変更が原因でモチベーションが下がってしまい、個々のパフォーマンスも下がり、ひいては業績も下がってしまっては本末転倒です。社員の心の持ち様にも配慮しないと、何のための変更か分からなくなってしまいます。ですから、いわゆる「交換条件」も必要でしょう。
例えば、「給与や手当が〇〇円下がるが、その代りに、新しい手当や休暇を創設する」等、絶対正解というものはないですが、自社の考え方や社員の傾向などを考慮して、モチベーションが下がらないように交渉することも大事です。
就業規則の不利益変更・・・社員にとって大事な労働条件が「下がる時」は慎重になる。不利益変更はそもそも、簡単にはできない。どうしてもする必要があるのであれば、きちんと順序を踏んで、同意を得る。・・・と理解しておきましょう。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。