退職代行サービスの現状と企業の対応策
退職代行サービス利用の増加傾向
退職代行サービスの利用者が増加しており、2024年10月のマイナビキャリアリサーチLabの調査では、直近1年間に転職した人の16.6%が退職代行サービスを利用したことが明らかになりました。特に営業職やクリエイター・エンジニア職での利用が多く、20代の若年層の利用率が顕著です。退職代行サービスは、一見すると退職をスムーズに行うための便利な手段のように見えますが、その背景には職場環境や人間関係、会社の退職対応の在り方が影響しています。
退職代行サービスを利用する理由
調査によると、退職代行サービスを利用する理由として最も多かったのは「退職を引き留められた(引き留められそうだ)から」で、全体の約40%を占めました。次に、「自分から退職を言い出せる環境でないから」や「退職を伝えた後トラブルになりそうだから」といった理由が挙げられています。これらの背景には、上司や同僚とのコミュニケーション不足や、退職に対してネガティブなイメージが根付いている職場文化があると考えられます。
また、若年層では職場環境や人間関係に敏感であることが多く、退職を巡るトラブルへの不安から、第三者のサポートを利用して退職を進めたいという心理が働くことも特徴です。これにより、従業員が自発的に退職を伝えることが難しい状況が生まれています。
ただし、私が見聞きしている中で感じる感覚としては、退職代行サービスを利用するのは、決して若年層だけに限った話ではなく、むしろ長年勤めたベテラン社員も多く利用しているという状況です。つまり、今まで長く勤め上げてきたからこそ、社長を始め、職場の同僚や部下との色々な「人間関係が濃い」ので、退職を言い出しにくいという心情が働いているのだろうと推測します。
企業側の課題と対応の現状
企業においても、退職代行サービスの利用者が増加していることを実感しており、調査によると約4社に1社が、2024年上半期に退職代行サービスを通じて退職した従業員がいると回答しています。
退職代行サービスが利用されること自体は従業員の権利の一部であり、違法性はありませんが、企業としては、従業員との信頼関係を維持し、離職率を下げるための取り組みが必要です。特に中小企業では、少ない人材リソースを最大限に活用する必要があるため、退職代行サービスの利用が増加することは大きな課題となります。
退職代行サービス利用を減少させるための実務ポイント
退職代行サービスの利用を防ぐためには、以下のような具体的な対応が重要です。
1. オープンなコミュニケーションの促進
従業員が気軽に相談や意見を述べられる環境を整えることは、退職意向の早期把握に役立ちます。特に中小企業では、経営者や人事担当者が従業員一人ひとりに気を配り、個別の悩みや課題を丁寧に聞く姿勢が求められます。定期的な面談やアンケートを実施することで、従業員の声を拾い上げる仕組みを構築しましょう。ちょっとした表情の変化や、今までよりも周りとのコミュニケーションが少なくなっている、今までは難なくこなせていた業務が遅れがちになっている等、日頃の変化に敏感になることが必要でしょう。
2. 職場環境の改善と従業員満足度の向上
退職代行サービスの利用をできるだけ防ぐためには、職場環境そのものの改善が欠かせません。定期的に従業員満足度調査を行い、職場の課題や不満点を洗い出し、改善策を実行することが重要です。また、柔軟な働き方の導入や福利厚生の充実といった取り組みも、従業員の定着率向上につながります。社長からすれば、職場の課題や不満点を洗い出すことは、本当は避けたい気持ちもあるでしょうが、聞こえてきた声に対して迅速に、かつ出来るだけ柔軟に対応する姿勢を示すことも、従業員満足度の向上につながると思います。
退職代行サービスの利用が増加している現状は、企業と従業員の関係性における課題を浮き彫りにしています。中小企業がこれらの課題に向き合い、適切な対応を講じることで、従業員の定着率を高め、職場環境を改善することが可能です。オープンなコミュニケーションの促進、職場環境の改善といった取り組みを通じて、従業員と企業双方が安心して働ける職場づくりを目指しましょう。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。