「役職定年制廃止が加速する?中小企業が取るべき人事戦略とは」
1. 役職定年制とは?中小企業の現状と背景
役職定年制は、一定の年齢(多くは55歳)を迎えると、管理職などの役職を外れる制度です。主に大企業で導入されています(中小企業では導入率が低く、令和5年(2023年)時点で、従業員50〜100人規模の企業では導入率は10.7%)。
「ポストの若返り」「年功序列による給与上昇の抑制」があるものの、少子高齢化や雇用環境の変化から、役職定年制の存在意義が問われ始めています。
2. 役職定年制廃止が加速する理由とは
近年、役職定年制を廃止する企業が増えています。その理由は以下の通りです。
• 少子高齢化の進行:若手社員の採用が難しく、50代で役職を外すことが現実的ではない
• 雇用の長期化:70歳までの就業機会確保が企業に求められている
• 人事評価の変化:特に大企業では、成果主義やジョブ型雇用の導入が進み、年齢より能力や実績が重視される
厚生労働省が公表する企業事例でも、役職定年制廃止とともに人事制度の改革が多く見られるようです。年齢に依存せず、適材適所の配置が求められる時代となってきていることが背景にあるんですね。
3. 役職定年制がシニア社員にもたらす影響
役職定年制はシニア社員にとって大きな影響を与えます。まず最も顕著なのが「給与の減額」です。役職手当がなくなることで基本給が大きく下がる企業も多く、生活水準の維持が難しくなるケースが見られます。公務員の場合、定年延長時に給与が役職時代の「7割程度」になるとされていますが、民間企業ではさらに低くなることも珍しくありません。また、「役職定年」と「60歳定年時」の2回にわたる給与減額がある企業も存在し、そうなると、役職定年前の半分以下に落ち込むこともあるのです。
次に、シニア社員が「やりがい」や「自信」を失う点です。役職定年後は管理職から外れ、いちスタッフとしての業務に戻ることが多く、これまでの経験やスキルが十分に活かされないことがあります。「部下を育成する立場」から「業務の一担当者」になることで責任感が薄れ、無力感や疎外感に苦しむシニア社員も少なくありません。
さらに、モチベーションの低下は転職希望の増加にもつながります。役職定年を迎える年齢(多くは55歳)は転職市場での難易度が急激に上がる時期です。そのため「役職定年になる前に転職したい」と考えるシニア社員が増えています。転職先には、役職定年制がない企業や定年が70歳以上の企業が希望される傾向がありますが、現実的に求人は限られています。役職定年制度は結果としてシニア社員の「給与減少」と「やりがい喪失」を引き起こし、労働意欲を削ぐ制度となっているのです。
4. 役職定年制廃止のメリットと注意点
役職定年制廃止の最大のメリットは、シニア社員の「経験・スキルの最大限の活用」です。長年の知識や専門性を持つシニア社員は、企業にとって貴重な人材です。役職定年で彼らの能力が眠ってしまうのではなく、引き続き組織の中で重要な役割を担ってもらうことで、生産性向上や業績改善につながります。また、シニア社員が役職を維持することで、働く意欲や目標を持ち続けられます。これは「長く働きたい」と考えるシニア社員の働きがいにも合致することです。
さらに、役職定年制廃止は「公平な人事評価の実現」を可能にします。従来の年齢による役職外しではなく、年齢に関係なく成果や能力に応じて役職を任せる仕組みを導入することで、シニア層も若手社員も同じ土俵で評価されることになり、より柔軟かつ適正な人事制度が構築できるでしょう。
一方で注意点もあります。
まず「人件費の管理」が課題です。役職定年を廃止すると、役職者が増えるため人件費が高騰するリスクがあります。そのため、給与制度や等級制度の見直しを行い、成果主義をベースにした評価体系を導入する必要があります。
また、「世代間の公平感」も忘れてはいけません。シニア社員が役職を維持し続けることで、若手社員の成長機会が奪われてしまう懸念があります。いわゆる『上がつっかえる』現象ですね。これを防ぐためには、シニア社員に「教育・指導役」などの新たな役割を与え、組織全体で次世代の育成を図る仕組みが必要です。
役職定年制廃止はシニア社員のモチベーション向上や企業の人材確保に貢献しますが、その実現には人事評価制度や組織構造の見直しが不可欠です。
5. 中小企業が考えるべき代替制度と人事評価改革
中小企業が役職定年制を廃止する場合、代替として「成果に相応した人事評価制度」や「役職任期制」の導入が有効です。
「成果に相応した人事評価制度」は、年齢に関係なく、成果や貢献度に基づいて評価・昇進を決定することで、公平な組織運営が可能になります。また、「役職任期制」は一定期間ごとに役職者を評価し、継続か交代かを判断する制度です。これにより、役職の固定化を防ぎ、若手社員にもキャリアチャンスが広がります。
6. 役職定年制に頼らないキャリア設計の重要性
シニア社員が長く働くためには、早期からのキャリア設計が重要です。役職定年制がなくても、50代以降の働き方を見据えて自身の「専門スキル」や「市場価値」を高める努力が欠かせません。具体的には、業務に関連する資格取得や研修参加を通じて専門性を磨くことが有効です。
また、企業側もシニア社員向けに「キャリア支援プログラム」や「スキル再教育研修」を導入し、能力の維持・向上を支援することが求められます。シニア社員が計画的にキャリアを築けるようサポートすることで、働き続ける意欲やモチベーションを高めることができます。年齢に依存せず、組織全体が「長く働ける環境」を目指すことが今後の鍵となります。
7. 中小企業が目指すべき「働き続けられる環境」とは
役職定年制の廃止は「長く働きたい」「自分の能力を生かしたい」というシニア社員の希望に応える動きです。中小企業にとっても、少子高齢化の中で人材確保は最重要課題です。
柔軟な人事制度の導入を進めることで、年齢に関係なく社員が活躍できる環境を作りましょう。シニア社員の経験や知識を生かし、若手との共存を実現することが、持続的な成長への鍵となります。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。