厚生年金(社会保険)年収問わずパートタイマーも加入!「106万円の壁」&「企業規模要件」撤廃へ
はじめに
厚生労働省が短時間労働者(パートタイマー)の厚生年金(社会保険)加入に関する年収要件を撤廃する方針を発表し、来年の通常国会に関連法案提出を目指すとのことです。特に、社員数に関する要件も撤廃されることで、中小企業においてとても大きな影響が予想されます。本記事では、これらの変更の背景と中小企業が講じるべき対策について詳しく解説します。
(本記事は、この2024年11月現在のニュースの概要とその影響について解説します。)
厚生年金(社会保険)加入の年収要件の撤廃
厚生年金の年収要件である「106万円の壁」は、多くの短時間労働者が保険料負担を避けるために労働時間を抑える要因となっている現状があるようですが、この改正により、週20時間以上働く短時間労働者は『年収に関わらず』加入することが求められます。
社員数に関する要件の撤廃
厚生年金の加入には勤務先の社員数※が51人以上であることが求められていましたが、これも撤廃されます。この変更により、社員数が少ない中小企業でも、社員数に関わらず、短時間労働者が厚生年金に加入することが求められます。
これに伴い、企業は新たな保険料負担を抱えることになります。
【※社員数とは、会社全体の正社員やパートタイマーなどの会社全体の人数のことを指すのではなく、『フルタイムで勤務する正社員』+『週の所定労働時間&月の所定労働日数がフルタイム勤務する正社員の4分の3以上のパートタイマー等』の人数。端的に言うと、現在、『社会保険に加入すべき基準ライン以上の勤務をしている社員の合計人数』。】
つまり、
『企業規模に関わらず』&『年収に関わらず』、週20時間以上働く短時間労働者(パートタイマー)は、厚生年金(社会保険)に加入しなければならない…ということです。
専門家としてのコメント
今回の厚生年金加入要件の見直しは、短時間労働者の権利を保障する重要な一歩ですが、反面、中小企業にとっては保険料負担の増加が直接的な影響となります。企業は、社員に対する説明責任を果たすとともに、経営上の対策を講じる必要があります。まだ先の話だと安穏としていては、企業運営にも大打撃を受けます。
中小企業が取るべき対策
中小企業の経営者の皆様には、今回の改正を受けた以下の対策をお勧めします。
社員数※50人以下の中小企業で働くパートタイマーは、多くの場合、週の所定労働時間&月の所定労働日数がフルタイム勤務する正社員の4分の3未満の労働条件で勤務し、社会保険には加入せず、配偶者が加入する健康保険の被扶養者として、年収130万円未満(かつ所得税が課税されない103万円未満)になるように調整して働いているというのが現状であり、現実です。
それが今回の改正の『企業規模に関わらず』&『年収に関わらず』、週20時間以上働く短時間労働者(パートタイマー)は、厚生年金(社会保険)に加入しなければならないという条件下で現在と同じような働き方をするのであれば、当然パートタイマー本人が社会保険に加入しなければならないことになります。その結果、配偶者が加入する健康保険の被扶養者ではいられなくなり、パートタイマー本人の家計の事情にも大きく影響してくることでしょう。
それであれば、「所定労働時間を20時間未満に抑えて働く」という選択肢も当然出てくるでしょう。
ただそうすると、今度は企業側が少ない労働時間が勤務できないパートタイマーをたくさん抱えるというような状況が生じることにもなり、この人材採用難の時代に、たくさんのパートタイマーを雇用しなければならないというジレンマも生じることでしょう。人材が採用しにくい業界であれば、なおのこと深刻な問題であるはずです。
パートタイマー本人への情報提供を正確に行い、質問や不安に対するフォローをしっかりと行ってあげることはもちろんですが、個人個人の働き方に配慮しつつ、企業運営が滞ってしまわないよう早め早めの対応が必要です。
厚生年金加入の年収要件撤廃と社員数要件の撤廃は、中小企業にとって新たな局面です。経営者はこれらの変更に迅速に対応し、社員との信頼関係を強化することが求められます。今後の動向を注視し、適切な対策を講じることで、持続可能な企業運営を実現しましょう。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。