中小企業のための「メンタルヘルス不調防止」実務対応
1. メンタルヘルス不調とは
メンタルヘルス不調は、職場や社会生活における心理社会的要因(ストレス要因)が原因となって、心身の不調(ストレス反応)を引き起こす状態を指します。業務に関連する主なストレス要因には、長時間労働やハラスメントがあり、個々の体調や心理状態にも影響を及ぼします。
2. メンタルヘルスケアの重要性
メンタルヘルス不調は、社員のパフォーマンスに大きな影響を与えます。適切なケアを行うことで、社員が健康で意欲的に働ける環境を整えることができます。特に中小企業においては、社員一人の不調が周りに与える影響が大きいですし、会社の運営にも支障をきたすことにもつながりますので、社員一人一人の状態にいち早く気づき、早期対応することが求められます。
3. ラインケアの「3つの予防」
一次予防(未然防止)
一次予防は、メンタルヘルス不調が発生する前に、環境や職場のストレス要因を取り除くことに重点を置いています。この段階では、職場環境の改善が中心的なテーマとなります。具体的には、社員の仕事量の適正化や業務裁量の拡大が挙げられます。
例えば、長時間労働を防ぐために、業務の見直しを行うことが必要です。無駄な会議や業務を削減し、必要なタスクに集中できる環境を整えることが重要です。また、業務の負担が特定の社員に集中しないように、適切な人員配置を行い、チーム全体で業務を分担する体制を作ることも効果的です。
さらに、「社会的承認感」を高めるためには、上司からのフィードバックが欠かせません。部下の意見や感情に共感し、日常的にコミュニケーションを取ることで、心理的安全性が高まり、社員は安心して業務に取り組むことができます。このように、職場の環境を整えることで、メンタルヘルス不調の発生を未然に防ぐ取り組みが求められます。
二次予防(早期発見・早期対応)
二次予防は、メンタルヘルス不調の初期症状を早期に発見し、迅速に対応することを目的としています。この段階では、勤怠や仕事の能率、対人関係に関する小さなサインを見逃さないことが重要です。
具体的には、定期的なチェックリストを用いることで、社員の状態を観察します。例えば、遅刻や欠勤が目立つ、仕事の質が低下している、デスク周りが散らかっているなどの兆候がある場合、上司から積極的に声を掛けることが大切です。この際、抽象的な質問ではなく、具体的な事実に基づいた懸念を伝えると、部下は応答しやすくなります。
また、感情に寄り添ったサポートをすることも必要です。部下が何を感じているのか、どのような問題を抱えているのかをじっくり聴くことで、安心感を与えます。特に、懸念が感じられる場合は、専門家や産業医と連携し、適切なサポートを提供することが求められます。迅速な対応が、社員の精神的健康を維持するカギとなります。
三次予防(復職支援・再発防止)
三次予防では、メンタルヘルス不調によって休職した社員の復職を支援し、再発を防ぐための具体的な施策を講じます。復職支援は、復職に向けた準備とプロセスを明確にすることから始まります。例えば、復職前に試し出勤を実施することで、社員がスムーズに職場環境に戻れるようにします。
復職判断の基準も重要です。具体的には、社員が週5日フルタイムで出勤できること、ある程度(休職前の業務量と比較して)の業務をこなせること、再発防止策が考慮されていることが求められます。復職前には、主治医による診断書をもとに、体調の確認を行うことが必要です。また、復職後も定期的に体調確認を行い、業務負荷を徐々に戻すことが推奨されます。
このように、ラインケアの3つの予防を通じて、メンタルヘルス不調に対する包括的なアプローチを取ることが、企業の健全な発展に寄与することになります。
4. 実務対応のポイント
早期発見のためのチェックリスト
早期発見は、メンタルヘルス不調を防ぐための重要な要素です。社員の体調変化に気づくためには、日常的に観察し、変化を記録することが効果的です。具体的なチェックリストを用意し、以下のような項目を定期的に確認します。
・遅刻や欠勤が増えているか
・ 残業や休日出勤が多くなっているか
・ 仕事の能率やペースが著しく低下しているか
・ デスク周りが散らかっているか
これらのサインが1〜2週間続く場合は、上司から声を掛け、状況を確認することが望ましいです。具体的な事実に基づいて懸念を伝えることで、部下は話しやすくなります。また、定期的なフィードバックを通じて、社員が安心して自分の問題を相談できる環境を整えましょう。
コミュニケーションの重要性
アサーティブコミュニケーションは、メンタルヘルス不調者にとって非常に重要です。自分の意見を伝えつつ、相手の意見も尊重する姿勢が、職場内の心理的安全性を高めます。社員とのコミュニケーションを円滑にすることで、職場の雰囲気が改善され、社員は自分の意見を気軽に表明できるようになります。
特に、相談があった場合には、まず本人の意見を丁寧に聴くことが重要です。共感を示すことで、社員のストレスを軽減することができます。励ましやアドバイスは大切ですが、無理に解決策を押し付けることは避けましょう。聴く姿勢を大切にし、社員が自ら解決策を見出せるように導くことが、長期的なメンタルヘルスの維持に繋がります。
このような実務対応を通じて、企業は社員のメンタルヘルスを支援し、健康的な職場環境を実現することができます。メンタルヘルス対策は、企業の持続可能な成長に寄与する重要な要素です。社員の健康を守ることが、企業の信頼度や生産性を高めることにもつながります。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。