年次有給休暇の適正管理でトラブル回避!中小企業が押さえるべきポイント
年次有給休暇(有休)は、社員にとっての権利であり、企業にとっても重要な労務管理のひとつです。しかし、特に中小企業では、有給休暇の管理が十分でない場合が多く、社員からの不信・不満につながりやすく、トラブルに発展するケースも少なくありません。
今回は、年次有給休暇に関するポイントを押さえ、中小企業が行うべき適切な管理方法について解説します。これを参考にすることで、労務管理の信頼性を高め、トラブルを未然に防ぐことができます。
年次有給休暇の基本を押さえよう
まず、年次有給休暇とは、労働基準法によって定められた社員の権利です。雇用開始時から6ヶ月が経過し、かつ、その期間における出勤率が80%以上であれば、年間10日の有休が与えられます。さらに、以降1年ごとに勤続年数に応じて有休の付与日数が増えていく仕組みです。そんなの当たり前だと言われるかもしれませんが、付与される日数が半分の5日しかなかったり、都合の良い運用が散見されるのが現実です。
よく社長の口から聞かれるのは、「中小企業でも大企業と同じように有休を与えなくちゃいけないなんておかしい」という台詞ですが、中小企業だろうと、大企業だろうと、規模に関係なく、同じルールで、社員が法的に認められた有休を与え、取得できるように管理しなければなりません。これを怠ると、法的責任を問われるだけでなく、社員のモチベーションや労働環境にも悪影響を与える可能性があります。
最新の法改正 – 有給休暇の時季指定義務
もうかなり経ちますが、労働基準法の改正により、2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇が付与される社員に対して、有休の日数のうち年5日については、会社が時季を指定して取得させることが義務付けられました。これは、会社が社員に対して、少なくとも年5日は有休を「取得させる」義務があるというものです。これも、当然、中小企業であっても例外ではなく、社員が有休を5日間自発的に取得していない場合、会社が時期を指定して取得させる必要があります。また、その時季指定に当たっては、社員の意見を聴取しなければいけません。できる限り社員の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければいけないのです。
この改正があるまでは。「取得させる」ところまでは法的に要求されていなかったので、非常に大きな改正であったのですが、その分、飲食業を営む会社などを中心に、まだまだ徹底されていないのが現状でしょう。もちろん、労働基準法違反となりますので、許される訳ではありません。
実務における有給休暇の管理方法
有給休暇管理簿を作成・保管
法律上、企業は年次有給休暇の取得状況を記録することが義務付けられています。このため、毎年社員ごとの有休の付与日数や取得状況を「有給休暇管理簿」として適切に管理し、5年間保管する必要があります。適切な管理を行うことで、法改正にもスムーズに対応でき、後々のトラブル防止にも繋がります。
システムを活用した有給管理の自動化
上記の管理方法は問われませんが、従来の紙ベースまたは表計算ソフトでの管理が面倒だと感じる会社には、クラウド型の勤怠管理システムの導入も検討してもいいと思います。システムを活用すれば、有休の付与日数や残日数をリアルタイムで把握でき、計算ミスや記録漏れを防ぐことが容易です。手間を減らし、管理の精度を高めるためにも、デジタルツールの導入は有効です。
社員への周知と教育
有休の管理が法的に適正であっても、社員が有休の取得を「取りたくても取れない空気感」により、遠慮するケースもあります。このため、会社としては「有休は正当な権利であり、自由に取得できる」ことをしっかりと周知し、取得を奨励する風土づくりが大切です。
ただ、そのための体制づくりが大変なのが社長の悩みのタネですね。人手が足りない、現場がまわらない、運営が成り立たない…しかしながら、違法状態をいつまでも放置しておくこともできませんし、社員の不信・不満が蓄積していくことも危険です。人手の対策だけでなく、営業時間の工夫や設備の機械化・自動化、ITシステムの導入など、運営の対策も視野に入れて対策していかないと、状況は改善しません。
実務ワンポイントアドバイス
毎年の有給休暇付与日を明確にする
社員一人ひとりの入社日を基準に、有休の付与日を明確にしておくことが重要です。また、定期的に有休の取得状況を確認し、未取得日数が多い場合には早めに取得を促すようにしましょう。
リマインダーで取得を奨励
取得推進のため、年5日の有休が未取得の社員に対して、定期的にお知らせする仕組みを作りましょう。これにより、社員が取得を忘れず、会社側も時季指定義務を果たしやすくなります。システムがない、またはシステムを導入していても通知機能がないのであれば、スマホのリマインダーを使うだけでもいいのです。
取得しやすい労務環境を整備
社員が有休を遠慮なく取得できるように、日頃からオープンなコミュニケーションを心がけ、休暇申請がしやすい職場環境を作りましょう。まずは、上司から取得するべきでしょうね。忙しい人ほど、有休を取る環境を作っていかないと、なかなか変わらないものですから。
年次有給休暇の適正管理は、企業の法令遵守と社員満足度向上の両方に大きく寄与します。特に中小企業では、法改正による義務をしっかりと理解し、実務に落とし込むことが重要です。今回の内容を参考に、適切な管理体制を整えることで、会社全体の信頼性を高め、健全な労務環境を構築しましょう。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。