過労死防止のために中小企業が取るべき具体的な対策
はじめに
過労死は、日本社会における重大な問題であり、大企業だけのことではなく、中小企業においても避けて通れない課題です。本記事では、過労死を防止するための具体的な対策について解説し、企業の信頼性向上に役立つ情報をご紹介します。
過労死の現状と背景
過労死は、日本における重大な社会問題であり、過労やストレスによる健康障害が原因で労働者が死亡する事例を指します。背景には、長時間労働や過重な業務負担があり、特に中小企業では人手不足や労働環境の改善が進んでいないことが拍車をかけているようです。厚生労働省のデータによると、過労死による労災請求件数は年々増加しており、対策の強化が求められています。過労死の要因には、長時間労働だけでなく、メンタルヘルスの問題やハラスメントなども含まれます。これらの要因が複合的に作用し、労働者の健康を著しく悪化させることで過労死を引き起こします。従業員の健康を守るためには、労働時間の適正管理や職場環境の改善が不可欠です。
過労死防止の法的枠組み
過労死防止のための法的枠組みは、「過労死等防止対策推進法」と「働き方改革関連法」が柱となっています。過労死等防止対策推進法は、過労死防止のための対策を国として推進することを目的としており、厚生労働省が中心となって対策を実施しています。また、働き方改革関連法では、労働時間の上限規制や有給休暇の取得促進など、働き方の改善を目的とした規制が導入されています。これにより、企業は労働時間の適正管理や健康管理に努める義務を負います。特に、中小企業はリソースが限られているため、これらの法的義務を遵守するための具体的な対策を講じることが難しいですが、軽視することなく対策することが重要です。例えば、労働時間の記録を厳格に行い、適切な休暇取得を促進することで、従業員の過労を防止することが求められます。
時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制は、過労死防止のための重要な施策の一つです。原則として1か月の時間外労働は45時間、年間で360時間を超えてはならないと定められています。これを超える労働は特別な事情(特別条項)がない限り許されません。特に中小企業では、労働時間の管理が曖昧になることも多いため、適切な対応が求められます。例えば、労働時間をリアルタイムで管理でき、記録が労使双方にとってあやふやになりにくい指紋認証&クラウド型の勤怠管理システムの活用も過剰な労働時間を未然に防ぐには良いかもしれません。また、管理者・従業員双方への適切な労働時間管理の教育や、過度な業務負担を避けるための業務分担の見直し(ワークシェアリング)も重要です。これにより、時間外労働の上限を守り、従業員の健康保護に役立つでしょう。
労働時間の管理と記録
労働時間の適正な管理と記録は、過労死を防止するために非常に重要です。労働基準法では、使用者は従業員の労働時間を適正に把握し、記録する義務があります。適切な管理が行われないと、労働時間が過度に長くなり、過労死のリスクが高まります。定期的な労働時間のチェックを行い、異常が確認されれば速やかにその場で対応することが重要です。従業員が自ら労働時間を自己申告し、管理者がそれを承認するという仕組みを整えることが基本です。透明性のある労働時間管理の実現のために、自社に適した方法での労働時間の管理と記録を整備しましょう。
メンタルヘルス対策
メンタルヘルス対策は、従業員の精神的健康を守るために欠かせない要素です。過労やストレスは、精神疾患のリスクを高め、結果として過労死に繋がることもあります。企業は、定期的なストレスチェックを実施し、従業員の精神的な状態を把握することが求められます。ストレスチェックの結果に基づいて、必要に応じて専門のカウンセリングを提供することも有効です。さらに、メンタルヘルスに関する研修を定期的に行い、従業員が自分自身のストレス管理方法を学ぶ機会を設けることが重要です。職場環境の改善も不可欠で、作業環境・作業方法・職場で必要となる施設及び設備等の物理的な環境のみならず、労働時間、仕事の量と質、職場の人間関係、職場の組織及び人事労務管理体制、職場の文化や風土等幅広いものが含まれると考えましょう。例えば、「温熱環境や音環境、視環境を快適化する」「職場の受動喫煙を防止する」「繁忙期やピーク時の作業方法を改善する」「同僚で相談でき、コミュニケーションがとりやすい環境を整備する」などもメンタルヘルスの維持に寄与します。従業員が安心して働ける環境を整え、企業全体の生産性向上に繋げましょう。
ハラスメント防止
職場でのハラスメント防止も、従業員が安心して働ける環境を整えるために重要です。ハラスメントは、従業員の精神的・身体的健康に深刻な影響を与え、結果として過労死のリスクを高めることもあります。企業は、ハラスメント防止対策を徹底するために、まず就業規則等の社内規定を明確にし、従業員に対する周知を徹底することが求められます。また、ハラスメントが発生した場合の相談窓口を設置し、迅速かつ適切に対応する体制を整えることも重要です。定期的なハラスメント防止研修を実施し、全従業員に対してハラスメントの定義や具体的な対応方法を教育することが推奨されます。さらに、管理職にはハラスメントに対する責任を明確にし、積極的に防止策を講じることを求めます。これらの取り組みを通じて、ハラスメントのない健全な職場環境を構築し、従業員の働きやすさを向上させることが可能です。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。