「労働条件通知書」と「雇用契約書」の違い
「労働条件通知書」・「雇用契約書」とは?
「労働条件通知書」と「雇用契約書」は、社員を雇用する際に重要な役割を果たしますが、その目的と法的要件には明確な違いがあります。就業規則の内容と連動する、これらの文書がどのように異なり、各々が持つ重要性について解説します。
労働条件通知書
「労働条件通知書」は、労働基準法第15条に基づき、使用者(会社)が労働者(社員)に対して、労働条件を明示するために必要とされる文書です。この通知書は、賃金、労働時間などの基本的な労働条件を記載し、雇用が開始される前に社員に明示しなければならないものです。
雇用契約書
一方で、「雇用契約書」は、会社と社員との間で労働契約が合意に至ったことを証明する契約文書です。労働基準法によって直接要求されるものではありませんが、雇用関係の明確化やトラブルの予防、労使双方の権利と義務の保護等に役立つものです。
「雇用契約書」は法的に不要?
社員を雇用した際に、「雇用契約書」は必要なのか?
・・・意外に思われるかもしれませんが、実は不要です。
では、逆に「労働条件通知書」は必要か?
・・・労働基準法で、雇用したら労働条件※を社員に明示しなければならないと定められています。ですから、「労働条件通知書」は必要です。
※労働条件通知書に明示しなければならない内容
(労働基準法第15条第1項・労働基準法施工規則第5条)
◆必ず明示しなければならないこと(①~⑦)
◆原則として「書面」で交付しなければならないこと(①~⑥)
(「書面」;労働者が希望した場合は、ファックスやメール等の方法で明示することが可能。ただし、書面として出力できるものに限る。下記の項目が記載されていれば、書式は特に決まっていない。)
①契約期間に関すること
②期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
③就業場所、従事する業務に関すること
④始業・終業時刻、休憩、休日等に関すること
⑤賃金の決定方法、支払い時期等に関すること
⑥退職に関すること(解雇の事由を含む)
⑦昇給に関すること
法的には「雇用契約書」の作成は不要ですので、「労働条件通知書」さえ作成して運用していれば問題ありません。しかし、トラブル防止のためにも作成しておく方が望ましいです。
より効率的にするには、「雇用契約書」の内容と、その他に取り交わす可能性のある、個人情報や秘密保持、情報漏洩といった各種守秘義務についての契約書があれば、それらと内容を合わせて一つにして運用するのもいいでしょう。
署名捺印の有無
「雇用契約書」は社員と会社の労使双方が、契約書として合意したことを証明するので、原則として署名・捺印は必要(本人直筆の署名であれば、捺印はなくても可)なのに対し、「労働条件通知書」は会社側から社員に対して“一方的に”渡すという性質上、会社・社員どちらの署名・捺印は不要です。(よって、メール等で通知したものに署名・捺印がなくても問題ない)
しかしながら、実務的には、労使間で何らかのトラブルが発生してしまった場合に、「言った・言わない」の争いになってしまうのを防ぐためにも、「雇用契約書」「労働条件通知書」どちらにも、労使双方の署名・捺印するのが望ましいです。また、保管方法も、同様の理由から、2部作成して、1部ずつ会社と社員が保管するのが良いです。
また、より効率的にするには、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として、両方の内容をきちんと網羅して、まとめて作成することもいいでしょう。
現場でよく見られること
①「労働条件通知書」と「雇用契約書」の混在管理
記載内容が「労働条件通知書」のものなのに、タイトルが「雇用契約書」になっている会社が案外、多いです。「雇用契約書」の方が名称的にも認知度が高いということも影響しているのかもしれません。ただ、タイトル違い自体は大きな問題ではないのですが、問題なのは、上記の「労働条件通知書」に記載しなければいけないと法定されている内容が書かれていないことです。こうなると、法的にも内容を満たしていないので、認められません。これもまた、案外多く見られます。
②「労働条件通知書」の更新不備
社員の勤務が長くなれば、都度、労働条件が変わっていくことは当然あります。特に、基本給や手当の額の変更や勤務場所の変更、あるいはパートタイマーから正社員に変更等。
労働条件の変更があった場合、都度、「労働条件通知書」も更新する義務があります。しかしながら、中小企業においては、なかなか徹底されていないことが多いです。かなり昔に交わした労働条件通知書のままで、記載内容は、今現在の労働条件とは全く違うなんてこともけっこうあります。
「労働条件通知書」と「雇用契約書」のそれぞれの違いを理解し、作成や更新をも、きちんと管理することは、トラブル防止のためにも重要です。安易な考えで管理が不徹底になり、トラブルを引き起こし、不要なところに時間や労力、お金をかけなくてよいように、これらの文書を適切に運用していきましょう。
2024年4月からの改正
就業場所・業務の「変更の範囲」の書面明示ルールが改正されます。その点について、下記添付の厚生労働省のパンフレットを、要約して、もう少し分かりやすく解説します。
注意点①・・・対象
「すべての労働者」が対象
(無期契約労働者【多くは正社員のことで、契約の期限が決まっていない】だけでなく、パートタイマーやアルバイト、契約社員、派遣労働者、定年後に再雇用された労働者などの有期契約労働者【契約の期限がいつまでか決まっている】も含む)
注意点②・・・時期
2024年(令和6年)4月1日以降
「変更の範囲」の明示が必要となるのは、2024年(令和6年)4月1日以降に契約を締結するものや、契約を更新する労働者に対して。
既に雇用されている労働者に対して、改めて労働条件を明示する必要はなく、2024年(令和6年)4月1日以降に締結される労働契約について適用される。ただ、すでに雇用されている労働者へも、改めての明示を行うことは問題ない。また、有期契約労働者については、契約の更新は新たな労働契約の締結であるため、令和6年4月1日以降の契約更新の際には、新たなルールに則った明示が必要となる。
注意点③・・・改正の内容
『就業場所』と『業務』の「変更の範囲」 について
『就業場所』とは、労働者が通常就業することが想定されている就業の場所のこと。『業務』とは、労働者が通常従事することが想定されている業務のこと。
配置転換が命じられた場合、その配置転換先の『場所』や『業務』は含まれる。
他部門への応援業務や出張、研修等、臨時的・一時的な変更先の『場所』や『業務』は含まれない。
「変更の範囲」とは、『今後の見込み』を含めて判断するので、その可能性の高いものは対象になると考える。例えば、労働契約期間中に、テレワークを行う可能性が高い場合は、「変更の範囲」として明示しなければならない。
●具体的な記載例はパンフレットの4~6ページ、および20ページを参考にしながら、自社に合った記載をするように工夫してみてください。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。