社会保険加入要件撤廃へ~中小企業への影響と対策
はじめに
政府は、パートタイム社員が厚生年金(社会保険)に加入するための企業規模要件を撤廃する方針を固めました。この変更により、新たに約130万人のパートタイム社員が厚生年金(社会保険)に加入するようになる見通しです。本記事では、この2024年6月現在のニュースの概要とその影響について解説します。
ニュースの要約
政府は、2025年の次期年金制度改革に向け、パートタイム社員の厚生年金(社会保険)加入に関する企業規模要件の撤廃を検討しています。
現在、「従業員数※51人以上」の企業に限られている加入義務が、「全ての企業に適用」されるようになります。この変更により、多様な働き方に対応し、老後の貧困リスクを減らすことが期待されています。
【※従業員数とは、会社全体の正社員やパートタイム社員などの会社全体の人数のことを指すのではなく、『フルタイムで勤務する正社員』+『週の所定労働時間&月の所定労働日数がフルタイム勤務する正社員の4分の3以上のパートタイム社員等』の人数。端的に言うと、現在、『社会保険に加入すべき基準ライン以上の勤務をしている従業員の合計人数』。】
厚生年金(社会保険)の保険料は労使で折半負担であり、会社にとっては費用や事務作業の増加が懸念されます。政府は、この負担を軽減するための対策も検討しています。
また、従業員が5人以上いる個人事業所や宿泊業、飲食サービス業などの一部業種についても、厚生年金(社会保険)の適用範囲を広げる方針です。
現行制度との差異
現行制度では、2022年10月~従業員101人以上、2024年10月~従業員51人以上の会社に対してのみ、パートタイム社員の厚生年金(社会保険)加入が義務付けられています。
また、『週の所定労働時間が20時間以上』、『月額賃金(時間外労働手当・通勤手当・皆勤手当・家族手当等・賞与は含まず)が88,000円以上』、『2ヶ月を超える雇用の見込みがある』、『学生ではない』労働者が対象です。しかし、企業規模要件が撤廃されることで、全ての企業が同様の条件でパートタイム社員を厚生年金に加入させなければならない義務を負うことになります。
社会保険労務士としてのコメント
この企業規模要件の撤廃は、中小企業にとって大きな影響を及ぼすことが予想されます。従業員数が少ない中小企業でも、厚生年金(社会保険)の加入義務が生じるため、経費の増加や事務手続きの煩雑化が懸念されます。感覚的には、「雇用保険には加入しているが、社会保険には加入していない」パートタイム社員が、中小企業では“一般的”ではありますが、その態様がなくなるというイメージです。
一方で、パートタイム社員にとっては、厚生年金に加入できることがメリットにはなります。
ただ、ここについても、「配偶者の扶養範囲内で勤務する」ことが、長らく中小企業では“一般的”でしたが、個々の家庭において、それぞれの勤務する時間や収入のバランスを考えるタイミングが到来するのでしょう。
中小企業は、この制度変更に備えて、以下の対策を講じることが重要です。
1. 費用負担の見直し:厚生年金(社会保険)の保険料負担が増えるため、会社は費用負担額予算計画の調整が必要です。充分なシミュレーションを行って、備えておかなければいけません。
2. 事務手続きの効率化:厚生年金(社会保険)の加入手続きが増えるため、社会保険労務士等に外部委託をしていない会社は、効率的な事務処理のためのシステム導入の検討が必要でしょう。また、これを機に外部委託することの検討も必要かもしれません。
3. 社員への情報提供:制度変更に伴うメリット・デメリットや手続き等について、社員に適切な情報提供を行い、理解を深めてもらうことが大切です。
まとめ
パートタイム社員の厚生年金(社会保険)加入要件の撤廃は、中小企業にとって新たな負担を生じる一方で、労働者の福利厚生を充実させる重要なステップでもあります。この変化に柔軟かつ迅速に対応し、社員とのコミュニケーションを強化することで、労使双方にとってより良い職場環境を築いていくことが求められるでしょう。
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人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。