就業規則:手当の設定
就業規則(給与規程含む)に記載する各種手当を「一般的によく記載される手当」と、「独自の手当」に分けてご紹介します。
まず、基本的ではありますが、「〇〇手当」という各種手当を支給しなければならないという根拠法令はありません。(時間外手当と休日手当、深夜手当の割増賃金を除く)つまり、一切、手当はナシという決まりであっても問題ありません。しかし、手当の支給は、会社の人材管理や社員満足度向上等において重要な役割を果たしますので、会社の価値観・社員や組織の風土等に応じて判断した上で、必要な手当の支給を考えられれば良いと思います。
「一般的によく記載される手当」
①通勤手当
通勤経路に応じて、実費支給をする(または、実費支給ではあるものの、上限額を決める)のが、やはり一般的で多数を占めます。
あるいは、独自で算式を決めて、その計算にしたがって算出した額を支給するもの。これは「ガソリン代」をいくらで見積もるかが判断どころです。ある程度、世情の価格に合わせるか?会社が判断した額(例:あくまで補助として、世情の価格の半分の額に設定)か?
次に、通勤手段に基よる設定です。地方の場合、ほぼ通勤手段は自家用車なので、上記の「ガソリン代」の設定が第一ですが、もちろん電車やバス等の公共交通機関もあり得るので、その場合は、「定期券代」と置き換えて考えればいいでしょう。
また、実務的に重要視されるのは、「非課税限度額」です。国税庁で定められた「通勤手当の非課税限度額」というものがあり、例えば、自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当は、通勤距離が片道2キロメートル以上10キロメートル未満である場合…課税されない金額(=非課税限度額)は、4,200円と決められています。この距離と金額を支給基準(上限金額)にする会社も多いです。
②資格手当
もちろん会社の業種によって求められる資格は違えど、多くの会社で設定される手当です。資格の種類や難易度に応じて幅広く手当の額を変えることで、社員の意識向上やスキルアップを促すことが可能でしょう。
③役職手当
これも多くの会社で設定される手当です。組織が大きくなれば、基本的にはその分、管理者が必要になってきますので、その役職に就く人に対し、または将来的に、その役職に就いてみたいという意識向上のために、組織内での責任と権限の程度を反映した設定が望ましいです。
④家族手当
いわゆる扶養する家族数に応じた手当です。一般的には、配偶者、子の扶養人数に対し金額設定をすることがほとんどです。そこに、子の年齢制限(例:18歳になる年度末(=高校生)までとする)をつけたり、健康保険上の「被扶養者」の条件に合致する場合に限ったり、といった条件を付けることもあります。
ただし、業務と直接関係なく、福利厚生色が強いので、設定しない会社もあります。よって、会社の価値観が大きく影響する手当です。
⑤努力手当
明確な評価基準を設け、透明性・公平性を確保することが重要であることは言うまでもないのですが、中小企業では、なかなか公明正大な評価制度が確立されていないことも多く、ある程度、会社の判断で柔軟に対応していくという設定になることが多いです。ただ、あまりに会社の一存で決めるようでは、社員の不満を招くことにもなり得ますので、簡単なルールでもいいので、一定の基準は作るべきでしょう。
また、この「努力手当」は、名称が会社ごとに様々になります。名称は、会社の考え方に合ったものでいいので、「功労手当」「営業手当」「業績手当」「業務手当」等々、しっくりくるものにしてください。シンプルに言えば、「何らかの業務をがんばってくれた社員に支給する」というものですので。
「独自の手当」
これは、挙げだせばキリがないですし、名称も内容も千差万別です。上記の「一般的によく記載される手当」に加え、創意工夫して色々と企画してください。社員の働きやすさを実現でき、採用面でも魅力的ある会社であることを打ち出すこともできる、会社の独自性を打ち出すためにも重要です。
⑥スキルアップ手当
資格取得や外部研修受講等に必要な費用を支給する、支援色の強い手当です。社員のスキル向上を促し、中長期的な組織力の強化を図ることができるでしょう。
⑦リモートワーク手当
テレワークの普及により、在宅勤務を行う社員に対して支給する、自宅での労働環境を整えるための補助的な意味合いの手当です。通信機器やインターネット環境の整備費、冷暖房等の光熱費などが対象であることが多いです。
⑧物価高応援手当
2023年頃からの物価の上昇にともない、実質的に減少してしまう賃金の補填的な意味合いの手当です。設定金額は、厳密に計算すれば色々な指数を参考にできるのでしょうが、中小企業では、あくまで社員のために「生活感覚」で決定していいでしょう。
手当設定のメリットとデメリット
メリット:
・社員のモチベーション向上
・会社の魅力向上による人材の確保、定着
・特定の行動や目標達成を促進
デメリット:
・経営負担の増加
・手当の不公平感から生じる社員間の不満
・手当の基準や規定が複雑になりがち
手当を設定する際は、会社の経営状態を考慮しつつ、社員の働きやすさのニーズとのバランスをよく検討することが重要です。また、就業規則への、出来るだけ明確な記述と適切な基準明示が、トラブルをさけるためにも必要不可欠です。
人事組織コンサルタントとして『ヒト』に関する課題の克服にも尽力。
経営理念の作成・浸透コンサルティングを得意とし、人事評価制度の作成や教育研修講師も含め、企業組織文化の醸成に取り組む。
2022年 電子書籍『一番わかりやすい経営理念と事例解説』出版。